衛生管理者とは?仕事内容から資格取得のメリット・目指し方まで
大規模な事業場において必ず配置される衛生管理者は、職場の安全を守るという重大な役割を担っています。当記事では、衛生管理者の概要や主な仕事内容、さらにやりがいや資格取得のメリット、目指し方を徹底解説しています。
一定以上の規模を持つ事業場では衛生管理者が働いています。衛生管理者という名称は聞いたことがあっても、仕事内容を知らない方は多いのではないでしょうか。
衛生管理者は規模の大きい事業場に必ず配置されていて、職場の安全を守るという役割を担っています。衛生管理者に興味がある方は資格の種類による違いや、仕事のやりがいなども知っておくとよいでしょう。
今回は衛生管理者とはどのような仕事なのか、やりがいや資格取得のメリット、なるための方法などを解説します。
衛生管理者とは?資格による違いも
衛生管理者とは、国家資格である「衛生管理者」の資格を持ち、事業場の労働衛生を適正に管理する仕事です。
常時50人以上の従業員を使用する事業場では、衛生管理者の選任が義務付けられています。事業場の規模によっては、下記のように選任する衛生管理者数を増やさなければなりません。
事業所の規模 | 衛生管理者の必要人数 |
50人~200人 | 1人以上 |
201人~500人 | 2人以上 |
501人~1,000人 | 3人以上 |
1,001人~2,000人 | 4人以上 |
2,001人~3,000人 | 5人以上 |
3,001人~ | 6人以上 |
衛生管理者とひとくちに言っても、衛生管理者の国家資格には3つの種類があります。資格によっては対応できない業務があるため、以下で紹介する資格ごとの違いを把握しておきましょう。
(1)第一種衛生管理者
第一種衛生管理者は、すべての業種区分において、事業場の衛生管理者として働くことができる資格です。対応できる業種区分には、建設業・鉱業・医療業といった有害業務が発生する業種も含まれます。
有害業務とは、有害物質の取り扱いや発生などによって、従業員の健康に悪影響を及ぼすおそれがある業務のことです。建設業の「粉じん作業」や鉱業の「坑内業務」、医療業の「放射線業務」や「化学物質の取り扱い」などが有害業務に該当します。
有害業務を行う事業場では健康被害・労働災害が発生する可能性が高く、第一種衛生管理者の資格保有者は専門知識を身につけた上で事業場の衛生管理を行います。
(2)第二種衛生管理者
第二種衛生管理者は、有害業務とのかかわりが少ない業種に限定して、事業場の衛生管理者として働くことができる資格です。対応できる業種区分としては、小売業や金融業・保険業、情報通信業などが挙げられます。
第二種衛生管理者が働く事業場では、第一種衛生管理者と比較すると従業員の健康被害・労働災害は発生しにくい点が特徴です。
しかし、従業員の負傷・疾病やメンタルヘルスの問題はどのような事業場であっても発生する可能性があり、第二種衛生管理者はさまざまな衛生管理の業務を遂行します。
(3)衛生工学衛生管理者
衛生工学衛生管理者は、有害業務が発生する事業場において、衛生工学的対策を行うために必要となる資格です。
有害業務の中でも一定の業務を行う有害業務事業場では、衛生管理者のうち1人は衛生工学衛生管理者から選任することが義務付けられています。
第七条六: 常時五百人を超える労働者を使用する事業場で、坑内労働又は労働基準法施行規則第十八条第一号、第三号から第五号まで若しくは第九号に掲げる業務に常時三十人以上の労働者を従事させるものにあつては、衛生管理者のうち一人を衛生工学衛生管理者免許を受けた者のうちから選任すること。 |
なお、衛生工学衛生管理者の資格を取得するには、厚生労働大臣の定める数日間の講習を受講し、修了試験に合格する必要があります。講習受講の条件は第一種衛生管理者・第二種衛生管理者試験の受験資格よりも厳しいため、衛生管理者の経験者向けの資格です。
衛生管理者の主な仕事内容
衛生管理者の仕事は多岐にわたるものの、個々の仕事としては長時間かかる内容ではありません。
そのため、衛生管理業務のみを行う衛生管理者は少なく、総務部や人事部で働きながら役割の1つとして衛生管理業務を任されているケースがほとんどです。
以下では、衛生管理者が行う主な衛生管理業務の内容を、7つの項目に分けて解説します。
健康面に異常が見られた従業員の発見・処置
職場で健康面に異常が見られた従業員を発見し、適切な処置を行う業務です。過労の兆候が見られる従業員に声掛けをして休憩や健康診断の受診を促したり、怪我を負った従業員への処置を行ったりします。
健康面に異常が見られた従業員の処置を行うには、業務時間中であっても健診が実施できる環境を整えなければなりません。
また、従業員への健康診断の実施や怪我の処置は、企業の産業医や保健師が行います。衛生管理者は産業医や保健師と連携し、業務にあたることが大切です。
施設や職場環境における安全面・衛生面の調査・改善
事業場の安全面・衛生面が維持できていないと、従業員の怪我や体調不良につながります。従業員が働く施設や職場環境において、安全面・衛生面が保たれているかを調査し、問題がある場合には改善を進める業務です。
具体的には、下記のような項目についてチェックを行います。
● 照明の明るさは作業内容に合っているか ● ヘルメットなど保護具の着用が規則通り行われているか ● 作業場所の気温や湿度は適切か ● 労働時間は適正か ● トイレが清潔に保たれているか など |
安全面・衛生面のチェック項目は業種によって異なるため、事業場に合ったチェック内容を整備する必要があります。
労働衛生保護具や救急用具の点検・整備
事業場に備え付けられている労働衛生保護具や救急用具が、いつでも使える状態であるかを点検し、整備や補充などを行う業務です。
労働衛生保護具とは、呼吸用保護具・保護手袋・保護メガネなど、従業員の安全・健康を守るための保護具を指します。もう1つの救急用具は傷病者が発生したときの処置に必要な道具であり、一般的には包帯・薬・添木・担架・AEDなどのことです。
また、有事が発生した際に使用する避難経路の確認や、非常扉・避難階段・はしごの点検も行います。
従業員に対する衛生教育・健康相談
従業員が事業場で安全・健康に働けるよう衛生教育を行ったり、従業員がかかえる健康上の不安などについて相談対応をしたりすることも、衛生管理者の重要な業務です。
従業員に対する衛生教育は企業によって異なるものの、例としては下記の内容を実施します。
● 健康診断の重要性について周知する ● 原材料の有害性や適正な取り扱い方法を伝える ● 流行中の疾病について情報を提供する など |
健康相談で行う対応は、下記のような内容です。
● メンタルヘルスの相談対応を行う ● 産業医と連携して面談を手配する など |
従業員の業務内容に変更があったり、事業場で事故・病気が発生したときは、衛生教育・健康相談の内容も適宜合わせる必要があります。
従業員の負傷や疾病に関する統計作成
従業員が負傷や疾病になったときの状況・件数などをまとめ、統計を作成する業務です。作成した統計記録は、事業場の安全・衛生を改善するための判断材料として使用します。
統計作成時に使用する記録項目の例は、下記の通りです。
● 職場内で発生した負傷事故の件数 ● 負傷事故の発生状況 ● 負傷した従業員の直近の勤怠状況 ● 処置の方法 など |
統計は改善のときにデータとして何度も使われるため、視認性が良くなるように作りましょう。
衛生日誌の記載や職務上の記録・整備
衛生管理者の仕事内容を衛生日誌に記載したり、職務上の記録につけたりする業務です。衛生日誌などの記録に残すことにより、職場環境や衛生管理業務を把握できるようになり、正確な統計作成にも役立ちます。
衛生日誌などへの記録は、事業場で怪我や病気が発生したときはもちろん、傷病者が発生しなかった日であっても定期的な情報の記載が大切です。普段から職場や従業員の様子を記録すると、職場の衛生環境の変化や、従業員の不調を発見しやすくなります。
週1回以上の事業場の巡視
事業場を巡視して、設備や従業員の作業方法などについて安全・衛生を損なうおそれがないかを確認する業務です。
衛生管理者による事業場の巡視は、労働安全衛生規則によって週1回以上の実施が義務付けられています。
第十一条: 衛生管理者は、少なくとも毎週一回作業場等を巡視し、設備、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。 |
巡視では、就業のルールを守って安全に作業が行われているか、事業場の衛生環境が適切に維持されているかなどを確認します。怪我や病気になっている従業員を発見したときは処置を行い、衛生環境の問題が発見されたときには改善などの対処が必要です。
衛生管理者のやりがいと大変なところ
衛生管理者の仕事には多くのやりがいがある一方で、大変なところもいくつか存在します。衛生管理者を目指す方は、やりがいと大変なところを知っておくとよいでしょう。
衛生管理者のやりがい |
● 業務によって従業員の安全や健康を守れる ● 職場環境の改善により、従業員が働きやすい職場の実現に貢献できる ● 企業の社会的評価を守れる |
衛生管理者が業務を遂行することで、従業員の怪我や病気が発生しにくくなり、多くの従業員がいきいきと働けます。
また、業務による健康被害や労働災害が発生すると、企業の社会的評価は低下してしまいます。衛生管理者の仕事は自社を守れることも、やりがいを感じられるポイントです。
一方で、衛生管理者の大変なところとしては下記の3点が挙げられます。
衛生管理者の大変なところ |
● 従業員の生命と健康を守るという重い責任がある。 ● 衛生管理者以外の仕事を兼務するケースが多く、体力的な大変さを感じることがある。 ● 職場環境の改善について事業者と話し合う必要がある。 |
衛生管理者が職場環境について問題点や改善点を見つけても、自分の判断だけで改善を行えるわけではありません。事業場に設置される衛生委員会において、事業者と話し合う必要があります。
事業者には従業員の生命と健康を守る義務があるものの、すべての事業者が労災対策や職場衛生について高い関心を持っているとは限りません。衛生管理者は、衛生管理の専門家として事業者への提案・助言を行って、職場環境の改善を目指さなければならない点が大変なところと言えます。
衛生管理者の資格を取得するメリット3選
衛生管理者は誰でも行える仕事ではなく、難易度の高い国家試験に合格しなければ衛生管理者として働けません。
しかし、衛生管理者は企業からの需要が高く、資格取得の難しさに見合うだけのさまざまなメリットがあります。
衛生管理者の資格を取得する主なメリットを3つ紹介します。
就職・転職活動で有利にはたらく
衛生管理者は、一定以上の規模を持つ事業場において設置が義務付けられていて、企業にとって需要が高い人材です。衛生管理者の資格は取得難易度が高く、保有者はそれほど多くはないため、他の求職者との差別化ポイントとなります。
衛生管理者を募集する求人は多いため、選択肢を広げながら就職・転職活動を進めることが可能です。
キャリアアップにつながる
衛生管理者が普段働くことになる人事部・総務部といった職場では、管理職への昇進条件として衛生管理者の資格取得が挙げられているケースがあります。
昇進条件に含まれていないケースであっても、衛生管理者の資格は企業にとって重要性が高く、貴重な人材として評価されます。資格を保有していない方に比べて、衛生管理者の資格保有者のほうがキャリアアップを成功させやすいでしょう。
収入アップにつながる
衛生管理者の資格保有者はキャリアアップがしやすく、昇給・昇進による収入アップが目指せます。
また、衛生管理者は多くの企業で求められているため、資格手当の支給が期待できる点もメリットです。衛生管理者の資格取得にはいくらかの出費がかかるものの、資格手当が支給される職場で働けば出費額以上の収入が得られます。
ただし、資格手当の支給があるかどうかは企業によって異なります。求人を探す際は、資格手当の有無を確認するとよいでしょう。
衛生管理者になるには?
衛生管理者になるには、まずは国家試験である「第一種衛生管理者試験」または「第二種衛生管理者試験」の合格を目指しましょう。
最後に、「第一種衛生管理者試験」「第二種衛生管理者試験」の情報を簡単に説明します。
●受験資格
受験資格はいくつかのケースに分かれていて、第一種衛生管理者試験・第二種衛生管理者試験で共通しています。
代表的な受験資格は下記の3つです。
(1)最終学歴が大学卒業・短期大学卒業・高等専門学校卒業のいずれかであり、卒業後に労働衛生の実務経験が1年以上ある方 (2)最終学歴が高等学校卒業・中等教育学校卒業のいずれかであり、卒業後に労働衛生の実務経験が3年以上ある方 (3)労働衛生の実務経験が10年以上ある方 |
なお、第一種衛生管理者試験の受験資格には、第二種衛生管理者の資格取得は含まれていません。
●受験費用
受験費用は第一種衛生管理者試験・第二種衛生管理者試験で共通していて、「8,800円」です。国家試験であるため非課税となっています。
●試験内容
それぞれの試験内容は下記の通りです。
【第一種衛生管理者試験】
科目 | 出題数 | 配点 | |
労働衛生 | 有害業務に かかわるもの | 10問 | 80点 |
上記以外 | 7問 | 70点 | |
関係法令 | 有害業務に かかわるもの | 10問 | 80点 |
上記以外 | 7問 | 70点 | |
労働生理 | 10問 | 100点 |
【第二種衛生管理者試験】
科目 | 出題数 | 配点 |
労働衛生 | 10問 | 100点 |
関係法令 | 10問 | 100点 |
労働生理 | 10問 | 100点 |
合格基準は第一種衛生管理者試験・第二種衛生管理者試験で共通していて、各科目で得点率が40%であり、合計点の得点率が60%以上であれば合格となります。
●合格率と難易度
令和4年度の合格率は、第一種衛生管理者試験が45.8%、第二種衛生管理者試験が51.4%でした。
合格者は受験者の約半数であり、難易度が高い試験であると言えます。
●更新の必要性
第一種衛生管理者・第二種衛生管理者のいずれも資格に有効期限がありません。一度取得すると更新の必要はなく、生涯にわたり有効です。
まとめ
衛生管理者は事業場の労働衛生を管理する仕事であり、従事するには国家資格の「衛生管理者」取得が必要です。
衛生管理者の仕事には、従業員の安全・健康を守るなど多くのやりがいがあります。規模が一定以上の事業場では配置が義務付けられているため求人が多く、好条件の求人を探しやすいでしょう。
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