工場用語辞典

特定業務従事者の健康診断 【よみ】 とくていぎょうむじゅううじしゃのけんこうしんだん 【英語】 Health check-ups for specific workers

労働安全衛生法では、すべての労働者に対して一定の健康診断を義務づけていますが、中でも「特定の有害業務」に従事する労働者には、より厳密な健康管理が求められます。これが「特定業務従事者の健康診断(特定業務健康診断)」です。

これは、労働者が有害な環境下で働くことによる健康リスクを早期に発見・対処するために行われるもので、雇用者(事業者)には定期的な実施と結果に基づく対応が法律で義務づけられています。

特定業務とは何か?

「特定業務」とは、労働安全衛生規則第13条に基づき、健康に対して悪影響を及ぼすおそれがあるとされる業務のことを指します。これらの業務に従事する労働者は、一般の定期健康診断に加え、特定業務健康診断を6ヶ月に1回受ける必要があります。

主な特定業務の例

厚生労働省が定める特定業務には、以下のようなものがあります:

  • 高温・低温下での作業(例:製鉄所、冷凍倉庫)
  • 重量物の取り扱い(例:配送業、建設現場)
  • 有害化学物質の取り扱い(例:溶接工場、印刷業)
  • 振動工具の使用(例:削岩機・チェーンソー作業)
  • 放射線を取り扱う業務(例:医療用X線機器、原子力施設)
  • 騒音の大きい環境での作業(例:飛行場近くの工場)

これらの業務は、長期間の従事により、難聴、熱中症、腰痛、神経障害、肺疾患、皮膚疾患などの職業病を引き起こすリスクがあるため、通常よりも頻繁な健康管理が求められます。

特定業務健康診断の内容と実施方法

健康診断の内容

特定業務健康診断では、以下のような項目が一般的に実施されます(業務内容によって異なる場合があります):

  • 既往歴および業務歴の調査
  • 自覚症状および他覚症状の有無の確認
  • 身長・体重・視力・聴力検査
  • 血圧測定
  • 胸部X線検査
  • 尿検査(糖・蛋白など)
  • 貧血検査(赤血球数・ヘモグロビン)
  • 肝機能検査(AST・ALTなど)
  • 脂質検査(LDL・HDLコレステロール、中性脂肪)
  • 血糖検査
  • 心電図検査

特定業務の種類によっては、肺機能検査、血中鉛濃度の測定、騒音性難聴検査、振動障害の評価などの特殊項目も追加されます。

実施のタイミング

  • 配置前健康診断: 特定業務に初めて従事させる前に実施
  • 定期健康診断: 6ヶ月ごとに1回、定期的に実施

また、健康診断の結果は労働者本人に通知され、必要に応じて医師の意見を聴いた上で、就業場所の変更や作業時間の調整などの措置がとられることがあります。

ウイルテック公式求人サイト「ウイルタス」で仕事探し!製造業やエンジニアを積極採用!全国各地で面接、面談、登録を実施中。
ウイルテックでお仕事を見つけませんか?画像をクリックしてお仕事情報をチェック!

事業者と労働者に求められる対応

特定業務健康診断に関しては、事業者と労働者の双方に責任が課せられています。

事業者の義務

  1. 定期的な健康診断の実施(年2回)
  2. 健康診断結果の5年間保存
  3. 必要に応じた就業上の措置(作業の軽減、配置換えなど)
  4. 産業医との連携や、労働者への健康指導

労働者の役割

  • 健康診断を受ける義務(労働安全衛生法第66条)
  • 診断結果に基づく指示に従うこと(例えば過重労働の是正など)
  • 異常を感じた際には早めに申告する自己管理意識の保持

実際の事例と課題

例:印刷工場での有機溶剤の取り扱い

印刷業では、有機溶剤を使用してインクを洗浄する工程があります。ある中小企業では、長年この作業に従事していた従業員に肝機能障害が見られました。調査の結果、換気設備が不十分で、有機溶剤への慢性的な暴露が原因と判明。定期的な特定業務健康診断が実施されていなかったことが問題視され、行政指導が入ったという事例があります。

このようなケースでは、特定業務健康診断の未実施が健康被害の早期発見を妨げ、事業者にとっても大きな法的リスクとなります。

現代的な課題

  • 非正規雇用・派遣労働者の診断体制が不十分
  • 小規模事業者における実施率の低さ
  • 業務内容の曖昧さにより、対象業務であることを把握していないケース

これらの課題に対して、国や自治体、業界団体が連携して、啓発・支援を進めることが求められています。