工場用語辞典

商品を販売するということだけではなく、家庭の問題であったり、地域との関係であったり、そうしたさまざまな社会環境の視点に立って企業活動しなければならないのではないかという思考をソサエティインという。

「ソサエティイン」という言葉の意味

「ソサエティイン（Society-in）」とは、直訳すれば「社会の中へ」や「社会に包摂される」という意味を持つ言葉であり、多様な人々が隔てられることなく社会の構成員として共に生きるという理念を示しています。この用語は特に、「社会的包摂（social inclusion）」の日本語的表現として用いられることが多く、社会から疎外された人々（高齢者、障害者、生活困窮者、外国人など）を積極的に包み込み、排除せずに支え合う社会を指すものです。

背景：格差・排除の顕在化

21世紀に入り、グローバル化や経済のデジタル化が進む一方で、貧困や雇用不安、孤独死など、社会的排除の問題が各国で深刻化しています。日本においても、単身高齢者の増加、非正規雇用の拡大、子どもの貧困、多文化共生の課題などが浮き彫りになっています。このような状況下で、「誰一人取り残さない」社会の実現を目指すSDGsの理念とともに、「包摂的社会＝ソサエティイン」の必要性が高まってきました。

ソサエティインが目指す社会像

「包摂」と「共生」を軸とした社会

ソサエティインが目指すのは、すべての人が「そのままの自分」で受け入れられ、尊重されながら社会に参加できる社会です。それは単なる福祉的支援にとどまらず、人間の尊厳や多様性への配慮、自己決定権の保障を前提としています。従来の「援助する側」と「援助される側」という関係性を超え、誰もが主体的に生きる社会の構築が求められます。

教育・雇用・福祉における実践

ソサエティインの考え方は、さまざまな社会領域において実践されています。教育分野では、インクルーシブ教育が進められており、障害のある子どもとない子どもが同じ教室で学び合う取り組みが広がっています。雇用面では、多様な人材の活躍を推進する「ダイバーシティ＆インクルージョン」の企業施策が注目されています。また、地域福祉の現場では、居場所づくりやコミュニティカフェといった市民主体の活動がソサエティインの実践の場となっています。

ソーシャルキャピタルとの関係

「ソーシャルキャピタル（社会関係資本）」とは、人と人とのつながりや信頼関係を資本と捉える概念です。ソサエティインの実現には、このソーシャルキャピタルの醸成が不可欠です。地域コミュニティにおいて互助の精神が育まれれば、排除や孤立が防がれ、誰もが生きやすい環境が整います。行政・民間・市民が協働して「共に生きる場」を築くことが、ソサエティイン社会への道です。

日本におけるソサエティインの課題と展望

現代日本の課題

日本社会におけるソサエティインの実現には、いくつかの大きな課題があります。まず制度的な壁が存在します。たとえば障害者の就労支援や外国人労働者の受け入れ体制などが、制度の枠組みによって制限されていることがあります。また、偏見や差別といった社会的な意識の問題も根強く残っており、実際の「共生」を阻む要因となっています。

さらに、行政と地域の連携の不十分さや、人手不足、資金の限界といった実務上の問題もあります。特に地方においては、高齢化と人口減少が進行し、地域社会自体の存続が問われている状況です

ソサエティインを推進する取り組み

そのような中でも、ソサエティインを実現しようとする取り組みは各地で行われています。たとえば、地域包括ケアシステムの構築、子ども食堂や認知症カフェ、ホームレス支援、引きこもり支援など、さまざまな市民活動が「誰もが社会の一員」として生きることを支えています。また、企業においても、障害者雇用を単なる義務ではなく、経営戦略の一部と位置付け、インクルーシブな職場づくりを進める企業が増えています。

今後の展望：制度から文化へ

今後の課題は、「制度としてのソサエティイン」を超えて、「文化としての包摂」を根付かせることです。これは単に支援制度を整えるだけでなく、学校教育やメディア、地域活動などを通じて、他者を尊重し受け入れる価値観を社会全体に浸透させることを意味します。そのためには、多様な立場の人々が対話し、共に学び、共に生きる場を増やすことが求められます。
「ソサエティイン（Society-in）」は、単なる福祉政策や多文化共生の枠を超えて、人間の尊厳と多様性を基盤とした新しい社会像を示す概念です。それは、すべての人が「取り残されない」「排除されない」社会を実現するための哲学であり、実践でもあります。日本社会がこの理念を本当の意味で受け入れ、制度・文化の両面から深化させていくことが、持続可能で豊かな社会の実現への第一歩となるでしょう。