工場用語辞典
遡及 【よみ】 そきゅう 【英語】 Retroactive
ある法律・契約・処理・効力などが「過去にさかのぼって適用されること」を意味する言葉です。通常、新しい法律やルールは「施行日以降」に効力を持ちますが、遡及がある場合には「施行日より前の出来事にも適用される」ことになります。
このような遡及的な処理は、法制度、税務、年金、会計、労務管理など、さまざまな場面で登場します。
法律における遡及
法律の世界では、**遡及立法(そきゅうりっぽう)**が大きな論点になります。つまり、「新しくできた法律を、過去の行為にまで適用してよいのか?」という問題です。
▶ 原則:遡及は原則禁止(法の不遡及)
日本の憲法第39条では、「事後法によって処罰されない」つまり過去に合法だった行為を、後から違法にして罰することはできないと定められています。これは「法の不遡及(ふそきゅう)」という原則です。
実務における遡及:会計・税務・労務の例
例1:税務での遡及適用
ある税制改正が「2025年1月1日から施行」されたとしても、「2024年の取引にも適用される」とされた場合、それは遡及です。このようなケースは非常に稀であり、納税者の不利益になる遡及課税は、原則として行われません。
例2:会計処理の遡及修正
企業が会計処理の誤りに気づいた場合、過去の財務諸表を修正して再提出することがあります。これを「遡及的修正」と呼びます。
▶ 具体例:
2024年に2023年度の決算に誤りが見つかり、利益が過大に計上されていたとします。企業は2023年の財務諸表を修正し、正しい利益を再計算して再公表します。これは「会計の遡及修正」です。
福祉・労務における遡及の例
例3:年金や手当の遡及支給
申請が遅れた年金や児童手当が、過去にさかのぼって支給されることがあります。
▶ 具体例:
ある人が年金の受給資格を満たしていたにもかかわらず、申請が遅れていた場合、申請時に「○年前まで遡って支給」されるケースがあります(ただし、5年が限度など、制度によって制限があります)。
遡及のメリットとリスク
メリット:
- 過去の誤りを正せる(会計・年金など)
- 救済措置として有効(過去に不利益を受けた人への補償)
デメリット:
- 制度の予測可能性が下がる(「後出しルール」に)
- 法の安定性が損なわれる恐れがある
- 企業や個人に不利益を与えることもある