工場用語辞典

製造物責任 【よみ】 せいぞうぶつせきにん 【英語】 product liability

製品を製造または販売する企業が、その製品に欠陥があったために消費者が生命、身体、または財産に損害を被った場合に、その損害を賠償する法的な責任を指します。日本では1995年に施行された「製造物責任法(PL法)」によってこの原則が明確に定められており、消費者を保護し、企業の製品安全に対する意識を高めることを目的としています。

この責任の大きな特徴は、製造業者に過失がなかったとしても(無過失責任)、製品に欠陥があれば賠償責任を負う可能性があるという点です。これにより、消費者は製品の欠陥による損害を立証しやすくなり、救済が受けやすくなっています。

製造物責任が問われる「欠陥」の種類

製造物責任法でいう「欠陥」は、一般的に以下の3つのタイプに分類されます。

  1. 製造上の欠陥:
    • 製品が設計図や仕様書通りに製造されなかったために生じる欠陥です。個々の製品における製造過程でのエラーやミスが原因となります。
    • 例:
      • 冷蔵庫の組み立てラインで、部品の取り付けミスにより扉がきちんと閉まらなくなり、庫内の食品が腐敗した。
      • おもちゃの製造過程で、本来は含まれないはずの小さな金属片が混入しており、子供がそれを誤飲して怪我をした。
  2. 設計上の欠陥:
    • 製品の設計自体に問題があり、本来備わっているべき安全性が確保されていなかったために生じる欠陥です。設計段階での安全への配慮が不足していた場合に問われます。
    • 例:
      • 電気ケトルの電源コードが、過度な負荷がかかると発熱しやすく、火災のリスクがある設計になっていた。
      • 遊具の設計が、子供の指が挟まりやすい隙間があるにもかかわらず、その対策が講じられていなかったため、指を切断する事故が起きた。
  3. 表示上の欠陥:
    • 製品の取扱説明書、警告表示、注意喚起、あるいは製品自体に表示される情報に不備があり、安全な使用に関する情報が不足していたために生じる欠陥です。適切な情報が提供されていれば事故を防げたと考えられる場合に問われます。
    • 例:
      • ドライヤーの取扱説明書に「浴室での使用禁止」という明確な警告表示がなかったため、使用者が浴室で感電事故を起こした。
      • 特定のアレルギー物質を含む食品に、その物質の表示がなかったため、アレルギーを持つ消費者が重篤な健康被害を被った。

製造物責任の対象と損害賠償

製造物責任法において、賠償責任を負うのは「製造業者等」です。これは、実際に製品を製造した企業のほか、製品の加工業者、輸入業者、さらに自社の名称や商標を表示して製品を販売した者なども含まれます。

賠償の対象となる損害は、製品の欠陥によって生じた生命、身体、財産への損害です。欠陥のある製品そのものに対する損害(例えば、購入した家電が故障した際の修理費用など)は、原則として製造物責任法の対象外であり、売買契約上の責任(瑕疵担保責任など)で対処されます。

製造物責任の重要性と企業の対策

製造物責任は、企業にとって極めて重要なリスクの一つです。ひとたび製品事故が発生し、製造物責任が問われると、多額の損害賠償責任を負うだけでなく、企業のブランドイメージ失墜、社会的信用の低下、大規模なリコール、売上減少など、計り知れない損害につながる可能性があります。

そのため、企業は製造物責任を回避し、消費者の安全を守るために、以下のような対策を講じる必要があります。

  • 安全設計の徹底: 製品の企画・設計段階から、リスクアセスメント(危険性評価)を徹底し、潜在的な危険性を排除するよう最大限の安全配慮を行う。
  • 品質管理の強化: 製造プロセスにおける品質管理を徹底し、製造上の欠陥を未然に防ぐ。
  • 適切な表示と情報提供: 製品の取扱説明書、警告表示、注意喚起を分かりやすく正確に行い、安全な使用方法や潜在的な危険性について十分に情報を提供する。
  • クレーム対応体制の整備: 顧客からのクレームや事故報告に迅速かつ適切に対応できる体制を整備する。
  • 製造物責任保険への加入: 万が一の事故に備え、製造物責任保険に加入し、経済的リスクを軽減する。