工場用語辞典
熱処理加工 【よみ】 ねつしょりかこう 【英語】 heat treatment
金属材料を加熱・保持・冷却することによって、材料の硬さ・強さ・靭性(じんせい)・耐摩耗性などの性質を変える加工法です。金属そのものの形を変えるわけではなく、内部の組織(ミクロ構造)を変化させることで性能を調整します。
この技術は、自動車・航空機・機械・工具・建築など、金属部品を使用するあらゆる産業で必要不可欠です。
2. 熱処理加工の目的
熱処理は、以下のような目的で行われます。
- 🔧 硬さを高める(刃物や歯車などに)
- 🛡️ 耐摩耗性を上げる(こすれに強くする)
- 🔩 じん性(粘り強さ)を確保する(割れにくくする)
- ⚙️ 応力除去(残留応力の緩和)(加工ひずみを取る)
- 🔁 再結晶による性質の回復(加工硬化をリセットする)
3. 主な熱処理加工の種類
(1) 焼入れ(やきいれ)
鋼を高温(約800℃以上)に加熱し、その後急冷(油や水で急激に冷やす)して硬くする処理。内部組織が「マルテンサイト」という非常に硬い構造に変化します。
▶ 例:
- 包丁、ドリル、歯車など、高い硬度が必要な部品に使われる。
(2) 焼き戻し(やきもどし)
焼入れによって硬くなりすぎた金属を、再び低温で加熱し(150〜650℃程度)、硬さと粘り強さのバランスを取る処理です。焼入れとセットで使われるのが一般的です。
▶ 例:
- 工具やスプリングなど、硬くても割れにくい性質が求められる部品に適用。
(3) 焼なまし(アニール)
金属を高温に加熱したあと、ゆっくり冷却することで柔らかくする処理です。加工しやすくなり、残留応力も除去できます。
▶ 例:
- 金属板やパイプなどを曲げたり伸ばしたりする前処理として使われる。
(4) 焼ならし(ノーマライジング)
焼なましに似ていますが、空気中で冷やす点が異なります。内部組織を均一化し、加工性や機械的性質を安定させる目的があります。
▶ 例:
- 自動車のエンジン部品やフレームなどの大型部品に使われる。
(5) 表面硬化処理
金属の表面だけを硬くする処理で、内部は柔らかく粘り強いままにしておけるため、耐久性が向上します。
主な方法:
- 浸炭(しんたん):炭素を金属の表面に浸透させる
- 窒化(ちっか):窒素を拡散させて硬化する
- 高周波焼入れ:電磁誘導加熱で表面のみ急冷
▶ 例:
- 歯車、カムシャフト、シャフトなど、摩耗に強く、衝撃に耐える部品に使用。
4. 熱処理加工の流れ(例:焼入れ+焼き戻し)
- 予熱・加熱:金属を必要な温度まで加熱(例:800~900℃)
- 急冷:油や水に入れて一気に冷却(焼入れ)
- 再加熱:150~600℃に再加熱(焼き戻し)
- 自然冷却:ゆっくりと常温に戻す
この一連の流れで、「硬くて割れにくい」最適な金属性質が得られます。
5. 使用される産業・製品の例
| 製品・部品名 | 使用される熱処理 | 目的 |
| 包丁・ドリル | 焼入れ+焼き戻し | 切れ味と耐久性の向上 |
| 自動車の歯車 | 表面硬化処理 | 摩耗対策と衝撃耐性 |
| ボルト・ナット | 焼ならし ※1 | 強度の均一化 |
| 溶接部品 | 焼きなまし ※2 | 応力除去 |
※1焼ならし・・・金属を一度完全に加熱して結晶構造を整えたあと、空気中で冷やすことで、金属内部の組織(ミクロ構造)を均一にし、強度や靭性(じんせい:粘り強さ)を整える処理です。
※2焼きなまし・・・金属材料を高温に加熱したあと、ゆっくりと冷却することで、内部の応力を取り除いたり、柔らかくして加工しやすくする熱処理のことです。
6. 熱処理加工の注意点と課題
■ 注意点
- 温度管理が重要:温度が数十度違うだけで性質が大きく変わる。
- 冷却速度の調整:急すぎると割れや変形の原因に。
■ 課題
- 加工コストが高くなることがある
- **環境負荷(CO₂や排熱)**の問題
- 材料ごとの最適条件の把握が難しい
