工場用語辞典

差動装置 【よみ】 さどうそうち 【英語】 differential

差動装置(Differential gear)、通称「デフ」は、自動車などの車両において、左右の駆動輪に対して異なる回転数を許容するための重要な機構です。これにより、車両が旋回する際に内側の車輪と外側の車輪の移動距離の差を吸収し、スムーズな走行を可能にします。もし差動装置がなければ、旋回時にタイヤが無理に引きずられ、異音や振動、最悪の場合は車両の制御不能につながる可能性があります。

1. 差動装置の基本的な仕組みと必要性

差動装置は、エンジンからの回転力を左右の車輪に伝える最終減速機の中に組み込まれています。その基本的な仕組みは、複数の歯車(ピニオンギア、サイドギア)を組み合わせることで、入力された一つの回転運動を、左右の出力軸に対して異なる回転数で伝えることができるというものです。

  • 1.1 旋回時の左右輪の回転差: 車両が右または左に旋回する際、内側の車輪と外側の車輪が描く軌跡の半径は異なります。外側の車輪の方がより大きな円弧を描くため、内側の車輪よりも長い距離を移動する必要があります。同じ時間内に異なる距離を移動するということは、それぞれの車輪の回転数が異なる必要があるということです。
  • 1.2 差動装置がない場合の問題点: もし左右の車輪が常に同じ回転数でしか回れない構造(例えば、直接シャフトで繋がれているような状態)だと、旋回時にはどちらかのタイヤが路面を無理に滑ったり、抵抗したりすることになります。これは、以下のような問題を引き起こします。
    • タイヤの摩耗促進: タイヤが不必要に滑ることで、摩耗が早まります。
    • 異音や振動の発生: タイヤと路面の間に無理な力が加わることで、不快な音や振動が発生します。
    • 操縦性の悪化: 車両がスムーズに曲がれず、不安定な挙動を示す可能性があります。
    • 駆動系の負担増: 無理な力が駆動系全体に加わることで、部品の寿命を縮める可能性があります。

差動装置は、これらの問題を解消し、車両がスムーズかつ安全に旋回するために不可欠な機構なのです。

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2. 差動装置の構造と種類

差動装置にはいくつかの種類があり、それぞれ構造や特性が異なります。ここでは、基本的な構造と代表的な種類について解説します。

  • 2.1 基本的な構造: 一般的な差動装置は、主に以下の部品で構成されています。
    • リングギア: 最終減速機の出力軸に固定された大きな歯車で、ピニオンギアからの回転を受けます。
    • ピニオンギア: リングギアと噛み合い、左右のサイドギアに動力を分配する小さな歯車です。通常、複数個がキャリアケースに回転可能に取り付けられています。
    • サイドギア: 左右のドライブシャフトに接続された歯車で、ピニオンギアからの動力を受け取り、車輪を回転させます。
    • キャリアケース: ピニオンギアを保持し、リングギアとともに回転するケースです。
    エンジンからの回転は、プロペラシャフト(FF車の場合はトランスミッションから直接)を介して最終減速機のピニオンギアに入力され、リングギアを回転させます。リングギアの回転はキャリアケースに伝わり、ピニオンギアが自転しながらサイドギアの周りを公転します。直進時には、左右のサイドギアは同じ速度で回転しますが、旋回時にはピニオンギアが左右のサイドギアの間を動き、内側のサイドギアの回転を遅く、外側のサイドギアの回転を速くすることで、左右輪の回転差を生み出します。
  • 2.2 代表的な差動装置の種類: 近年では、車両の走行性能や安全性を向上させるために、様々な種類の差動装置が開発・採用されています。
    • オープンデフ(Open Differential): 最も基本的なタイプの差動装置で、左右の車輪に常に同じトルクを分配する特性を持ちます。片方の車輪が空転すると、もう片方の車輪にはほとんどトルクが伝わらなくなるという欠点があります。
    • LSD(Limited Slip Differential:リミテッド・スリップ・デフ): オープンデフの欠点を改善し、左右の車輪の回転差が大きくなりすぎると、差動制限機構が働き、トルクをよりグリップのある車輪に分配する機能を持つ差動装置です。機械式、油圧式、電子制御式など、様々な作動方式があります。これにより、悪路走破性や旋回性能が向上します。
    • トルセンLSD(Torsen LSD): ウォームギアとヘリカルギアの組み合わせを利用したLSDで、左右のトルク配分を連続的に変化させる特性を持ちます。機械式でありながら、比較的滑らかな作動が特徴です。
    • ビスカスLSD(Viscous LSD): 粘性流体(シリコンオイルなど)の抵抗を利用したLSDで、左右の回転差が大きくなると流体の粘性抵抗が増加し、差動を制限します。比較的安価でコンパクトなため、広く採用されています。
    • 電子制御LSD(Electronic Limited Slip Differential): 車輪速センサーやヨーレートセンサーなどの情報に基づいて、ブレーキや電子制御クラッチなどを利用して左右のトルク配分を最適に制御するシステムです。高度な車両姿勢制御システムと連携することで、高い走行性能を発揮します。