工場用語辞典
デファレンシャルギア 【よみ】 でふぁれんしゃるぎあ 【英語】 differential gear
日本語で「差動歯車」や「差動装置」と呼ばれ、自動車の駆動系に使われる重要な機構の一つです。主に、左右の駆動輪が異なる速度で回転できるようにするために搭載されています。
自動車がカーブを曲がるとき、車体の内側の車輪と外側の車輪では、通る距離が異なるため、回転速度も変わる必要があります。このとき、左右のタイヤが同じ回転数で固定されていると、タイヤがスリップしたり、路面を傷めたりする原因になります。そこで必要になるのが、左右の車輪に適切な回転差を与える「デファレンシャルギア」なのです。
デファレンシャルギアの構造と働き
1. 構造の概要
デファレンシャルギアは、車軸の中央部に取り付けられたギア機構で構成されており、以下の主な部品から成り立っています。
- リングギア:プロペラシャフトから動力を受け取る大きな歯車。
- ピニオンギア(サイドギア):左右の車輪へ動力を分配する歯車。
- デファレンシャルケース:内部にギアを収め、全体を保持するケース。
- サテライトギア(遊星歯車):左右のサイドギアの間に配置され、回転差を吸収する役割を果たす。
これらのギアが連動して回ることで、直進時には左右の車輪が同じ速度で回転し、カーブ時には自動的に回転差を生み出すことができます。
2. 回転差を吸収する仕組み
車が直進しているときは、デファレンシャルギア内のギア類は一体として回転し、左右の車輪に同じトルクが伝わります。しかし、カーブを曲がるときは、外側の車輪が内側の車輪より多くの距離を移動しなければなりません。そのとき、サテライトギアが回転して、左右のサイドギアの回転数に差を生じさせます。
この機構により、車はスムーズに曲がることができ、タイヤや駆動系への負担も軽減されます。
デファレンシャルギアの実例と応用
自動車のカーブ走行時の例
たとえば、一般的なFF(前輪駆動)車を想定します。ドライバーが左にハンドルを切ってカーブに入ると、左前輪(内輪)は短い距離を進み、右前輪(外輪)は長い距離を進む必要があります。このとき、両輪の回転速度が同じだと、内輪は滑るか、外輪は引きずる形になってしまいます。
しかし、デファレンシャルギアがあることで、左右の車輪は必要なだけ回転差を持つことができ、カーブを自然に、かつ安全に曲がることが可能になるのです。
雪道や悪路での問題とLSD
ただし、デファレンシャルギアには弱点もあります。たとえば雪道で、片輪が空転してしまった場合、通常のデファレンシャルでは回転差が大きくなりすぎて、空転している側にばかり力が伝わってしまい、車は前に進まなくなります。
これを防ぐために開発されたのが**LSD(リミテッド・スリップ・デファレンシャル)**です。LSDは、左右の回転差が一定以上になると内部で抵抗を生み、過剰な回転差を制限してトラクションを確保する仕組みです。スポーツカーや四輪駆動車、SUVなどにはこのLSDが採用されている場合が多く、走破性や走行安定性を高める効果があります。
