工場用語辞典
バスタブ曲線 【よみ】 ばすたぶきょくせん 【英語】 bathtub curve
「バスタブ曲線」とは、機械や電子機器などの故障率の変化をグラフにしたときに、浴槽(バスタブ)の断面のような形になることから名づけられた曲線です。横軸に時間、縦軸に故障率をとると、次のような3つの期間に分かれた曲線が現れます。
- 初期故障期間(早期故障期間):製品を使い始めてすぐの期間。製造ミスや組み立て不良などが原因で、故障率が高め。
- 偶発故障期間(安定期間):故障率が非常に低く、ほぼ一定。設計通りに製品が安定して稼働する時期。
- 摩耗故障期間(劣化期間):部品が経年劣化することで、故障率が再び上昇する時期。
これらをつなぐと、ちょうどバスタブのように、両端が高く、中央が低い曲線になります。
バスタブ曲線は、主に信頼性工学や保守管理、品質保証の分野で活用される重要なモデルです。製品の寿命や保守のタイミングを考える上で、非常に役立ちます。
各期間の特徴と具体例
初期故障期間:最初のトラブルに注意
製品を使い始めてから数時間〜数週間の間は、「初期故障期間」と呼ばれます。この期間に起こる故障は、製造上の不具合や設計ミス、組立不良、運搬時の破損などが原因で発生します。
具体例:
新しく買ったパソコンが、電源を入れてもすぐにシャットダウンしてしまった、というケースは典型的な初期故障です。この場合、内部の配線ミスや部品の欠陥が原因であることが多く、「初期不良」として交換対応されることもあります。
企業では、この初期故障を減らすために、**製品検査や「バーンインテスト(一定時間通電して問題が起きるか確認する試験)」**を行うことがあります。
偶発故障期間:最も安定した期間
製品の初期故障が落ち着くと、次は「偶発故障期間」に入ります。この期間は、製品が設計通りに正常に動作し、故障率も低く安定している時期です。多くの製品の寿命の中で、最も長く続く期間でもあります。
具体例:
冷蔵庫や洗濯機などの家電は、購入後数年間はほとんどトラブルなく使用できるのが普通です。これが偶発故障期間です。定期的なメンテナンスを行っていれば、さらに長く安定して使えることもあります。
この期間中に起こる故障は、偶然の外的要因(雷や誤操作など)が原因であることが多く、「偶発的(ランダム)」という名前がついています。
摩耗故障期間:寿命に向けて故障率上昇
製品を長く使用していると、部品が摩耗・劣化し始め、「摩耗故障期間」に入ります。この期間では、金属部品のすり減り、ゴム部品の硬化、電子部品の経年劣化などが主な故障原因になります。
具体例:
購入から10年経ったエアコンが、突然冷えなくなったり、水漏れしたりするケースは摩耗故障によるものです。ファンモーターの劣化や冷媒ガスの減少など、部品の寿命が限界に近づいているサインといえます。
企業では、この期間に入る前に計画的な**予防保全(定期交換)**を実施することで、突発的な故障を防ごうとします。

3. バスタブ曲線の活用と注意点
3-1. 保守管理・メンテナンスへの応用
バスタブ曲線は、機械設備の保守計画やメンテナンスの立案に非常に役立ちます。
- 初期故障期:出荷前の品質検査や試運転で早期不良を見つける
- 偶発故障期:通常運用中は最小限の点検でコストを抑える
- 摩耗故障期:定期交換や更新計画を立てて突発故障を未然に防ぐ
このように、バスタブ曲線の各期間に応じて適切な対応をとることで、設備の安定稼働やコスト削減が実現できます。
3-2. 限界と誤解に注意
バスタブ曲線はあくまで一般的な傾向を示したモデルです。すべての製品や機械がこの形になるわけではありません。
たとえば、ソフトウェアの場合は、物理的な摩耗がないため、摩耗故障期間という概念が当てはまりにくいこともあります。また、新技術が導入された製品では、初期故障が長引くケースもあります。
そのため、バスタブ曲線を活用する際には、自社製品や設備の特性をよく理解し、実データに基づいて判断することが重要です。