リバースエンジニアリングとは?活用メリット・各種法令との関係性も

「リバースエンジニアリング」とは、既存製品の設計や仕組みを明らかにする手法です。当記事では、リバースエンジニアの概要や具体的な手法と目的、さらに活用メリット、各種法令との関係性について徹底解説しています。
製品製造にかかわる業界では、既存製品の設計や仕組みを明らかにする「リバースエンジニアリング」という手法が存在します。
リバースエンジニアリングは製品開発にかかるコスト削減などのメリットがあり、技術の進歩が著しい近年において多くの企業が活用している手法です。リバースエンジニアリングに興味関心があり、具体的な手法やメリットなどが気になる方も多いでしょう。
今回は、リバースエンジニアリングとは何かから、具体的な手法や活用メリット、活用事例と各種法令との関係性までを徹底解説します。
目次
リバースエンジニアリングとは?

リバースエンジニアリングとは、既存製品を分解したり解析したりして詳細に調べ、設計や仕組みを明らかにする手法のことです。
リバースには「逆にする」「反転する」という意味があります。もう1つのエンジニアリングは、製品製造や設計図の作成にかかわる「工学」「技術」という意味を持つ言葉です。
リバースエンジニアリングは、一般的なエンジニアリングのプロセスを逆行して、製品製造などに役立つ知見を得るための技術という意味合いで使われています。
一般的なエンジニアリングとのプロセスの違い
一般的なエンジニアリングのプロセスでは、以下のように製品製造を進めます。
1 | 製品のアイデアを集め、仕様を決める。 |
2 | 製品の仕様から設計図を作成する。 |
3 | 設計図をもとに試作し、改良を進める |
4 | 製品を生産・量産する。 |
製品の仕様をもとに設計図作成と試作を行い、仕様を満たせる製品を作成することが一般的なエンジニアリングの目的です。
対してリバースエンジニアリングのプロセスでは、以下のように製品の設計や仕組みを解明します。
1 | 既存製品の分解を行う。 |
2 | 個々の部品を解析し、部品の仕様や仕組みを調べる。 |
3 | 解析結果をもとに製品の設計や技術を明らかにする。 |
4 | 新しい製品の開発・設計に役立てる。 |
リバースエンジニアリングでは既存製品の分解と解析から、製品の設計や技術を明らかにして、新しい製品の開発・設計に役立てます。
特定の製品の開発を目的とするか、製品から得られる技術や知見を新しい製品に役立てるかという点が、一般的なエンジニアリングとリバースエンジニアリングの違いです。
リバースエンジニアリングの具体的な手法
![リバースエンジニアリングの具体的な手法]のイメージ画像‐作業着姿の男性の左ての平に工場差作業員の黒抜きのイラストがのっている。](https://willtec.work/webapp/wp-content/uploads/2025/02/リバースエンジニアリングの具体的な手法.jpg)
リバースエンジニアリングの手法は、ソフトウェア業とハードウェア業で異なります。
ソフトウェア業とは、コンピュータ上で動作するソフトウェアを製造する業界のことです。一方でハードウェア業は、製造業など形のある製品を製造する業界を指します。
以下ではソフトウェア業・ハードウェア業のそれぞれにおけるリバースエンジニアリングの具体的な手法を解説します。
ソフトウェア業
ソフトウェア業におけるリバースエンジニアリングの手法は、以下の2つです。
●逆アセンブル
逆アセンブルとは、プログラムに記述されている機械語を、人間が理解しやすいアセンブリ言語に変換することです。
ハードウェア制御などに使用されるソフトウェアはソースコードがアセンブリ言語で記述されていて、逆アセンブルを行うとソースコードの内容が分かります。
ただし、ソースコードの記述を完全に復元できるわけではありません。プログラムがどのように動作するかを知る手がかりを得るときに使う手法です。
●逆コンパイル
逆コンパイルとは、オブジェクトコードに使用されている機械語を、人間が理解しやすい高水準言語で記述されたソースコードに変換することです。
オブジェクトコードはソフトウェアの処理に使用されるプログラムで、ソフトウェアに実行させる命令などが記述されています。
逆コンパイルを行うと、もともとのソースコードに記述されていた変数名・関数名などは失われるものの、コードの内容や構造を把握することが可能です。
ハードウェア業
ハードウェア業では、主に下記の装置を用いて製品の測定や分析を行います。
●3Dスキャナー
3Dスキャナーとは、対象物をスキャンして3Dデータを取得する装置です。取得した3Dデータは「CAD化リバースソフト」を利用して、CADソフトウェアで使用するCADデータに変換します。
各種部品のCADデータを取得すれば、設計図や仕様書がない状態からでも製品を復元できます。
●CTスキャン
CTスキャンとは、対象物にX線を照射して内部構造を撮影できる装置です。対象物を分解しないため、希少な製品や、構造が脆弱な製品の調査に向いています。
●CMMマシン
CMMマシン(三次元測定機)とは、対象物の縦・横・高さから精密な寸法を測定する装置です。CMMマシンは点や線、円などさまざまな要素を測定できるため、製品のサイズ・形状や材質を問わずに信頼性の高い測定作業が行えます。
リバースエンジニアリングの目的

製造業などに属する企業がリバースエンジニアリングを行う目的は、主に下記の3つが挙げられます。
●開発プロセスの短縮
新製品の開発プロセスを短縮するために、既存製品のリバースエンジニアリングを行うケースがあります。
一般的なエンジニアリングでは製品の仕様決定・設計図作成をしてから試作を繰り返す必要があり、数年単位の開発プロセスがかかることも珍しくありません。
リバースエンジニアリングによって明らかになった既存製品の設計図やソースコードを参考にすれば、目的とする新製品の開発を素早く進められます。
●自社開発した過去製品のマニュアル作成
リバースエンジニアリングは、自社開発した過去製品のマニュアルを作成する際にも使われる手法です。
過去製品のマニュアルや設計図は、製品の廃番や事業所移転などに伴って廃棄されることがあります。後になって過去製品から開発のヒントを得ようとしても、マニュアル類がない状態では対処できません。
リバースエンジニアリングを行えば、現物の過去製品からマニュアルを作成できます。
●自社開発した既存製品との互換性の確認・確保
新製品の仕様を決める際、自社開発した既存製品との互換性を考慮しなければならないケースがあります。リバースエンジニアリングは既存製品の仕様を詳細に分析できるため、互換性の確認・確保に適した手法です。 リバースエンジニアリングによる既存製品との互換性の確認・確保は、ハードウェア業だけでなくソフトウェア業にとっても重要な工程です。開発中のソフトウェアが既存ソフトウェアユーザーの利用環境に対応できるかや、既存ソフトウェアで発生していた問題を解決できているかを確認する必要があります。
リバースエンジニアリングの活用メリット

リバースエンジニアリングは、製造業などの企業が製品開発を進める上で多くのメリットがある手法です。開発期間・コストの削減や技術獲得のほかにも、自社製品のセキュリティリスクの発見にもつながります。
以下では、リバースエンジニアリングを活用する主なメリットを4つ紹介します。
開発にかかる時間とコストを削減できる
リバースエンジニアリングは既存製品の技術やアイデアを参考にできるため、製品の開発にかかる期間とコストを削減できます。
一般的に製品開発には多くの時間とコストがかかり、開発を完了してから量産までの間に顧客ニーズを維持できるとは限りません。自社製品を発売する前に市場のシェアを他社に奪われるおそれがあります。
リバースエンジニアリングを行えば、仕様・設計の検討や試作を重ねる必要がなくなり、自社製品を素早く開発できます。開発が短期間で済むことにより、人件費や研究開発費などのコストも削減可能です。
設計図や仕様書を入手できなくても復元できる
自社が開発した過去製品の設計図や仕様書を入手できない場合でも、リバースエンジニアリングを行うことで過去製品を復元できます。
企業の過去製品には職人の技術が詰まっていることが多く、設計図や仕様書が失われていると技術の承継ができません。過去製品に愛着を持つユーザーが多い場合、企業の強みを失うことにもなります。
リバースエンジニアリングで過去製品のCADデータ化や計測を進めれば、設計図や仕様書がなくても製品を復元可能です。
高度な技術や新たなアイデアの獲得につながる
リバースエンジニアリングによって既存製品の設計や仕様を把握することで、高度な技術や新たなアイデアの獲得につながります。獲得した技術・アイデアを活用して、より魅力的な自社製品の開発を進められるでしょう。
特に近年はグローバル化や科学技術の発展が著しく、顧客ニーズを満たせる製品には多くの工夫が盛り込まれています。ニーズが高い製品の特徴を理解して自社製品の魅力を高めるには、製品を詳細に分析するリバースエンジニアリングが欠かせません。
セキュリティリスクを低減させられる
リバースエンジニアリングには、自社製品のセキュリティリスクを低減させられるメリットもあります。
自社製品をリバースエンジニアリングすると、他社が同様のプロセスを行ったときにどのような情報を得られるかが分かります。たとえば自社の独自技術がリバースエンジニアリングによって簡単に分かる場合、何も対策しなければ自社製品の優位性は徐々に失われることになるでしょう。
リバースエンジニアリングを行えば自社製品のセキュリティリスクが分かり、重要な技術を守るための対策を立案できます。
【産業・分野別】リバースエンジニアリングの活用事例
リバースエンジニアリングはさまざまな産業・分野で活用されています。リバースエンジニアリングに興味がある方は、活用事例も知っておきましょう。
【製造業におけるリバースエンジニアリングの活用事例】 |
製造業では競争力の強化を目的としたリバースエンジニアリングがよく行われていて、競合他社の製品を分析することで新たな技術やアイデアの創出に役立てています。 具体的な例が自動車産業です。特に電気自動車業界では、他社の電気自動車を分解してバッテリーの構造や配置、シャーシのデザインなどを研究する手法が広く行われています。 また家電製品業界においても、多くの企業が自社製品の性能向上やアクセサリー機器の互換性確保を目的としてリバースエンジニアリングを行っています。 |
【セキュリティ分野におけるリバースエンジニアリングの活用事例】 |
セキュリティ分野では、コンピュータウイルスやスパイウェアといったマルウェアの解析にリバースエンジニアリングが用いられています。マルウェアを解析し、新たな脅威の挙動の解析や、脅威に応じた防御策の構築を行うことが主な目的です。 マルウェアの解析を進めれば、マルウェアがどのようなシステム・ソフトウェアを標的としているかや、どのように攻撃を仕掛けるかが分かります。自社開発のソフトウェアの脆弱性把握や、利用ユーザーの安全を守る上でリバースエンジニアリングは重要性が高い作業です。 |
リバースエンジニアリングは違法?各種法令との関係性も

リバースエンジニアリングについて理解を深める中で、「リバースエンジニアリングは違法ではないか」と不安を感じる方も多いでしょう。
まず前提として、リバースエンジニアリングの行為自体は違法ではありません。
しかし、獲得した情報の使い方によっては著作権・知的財産権・特許権の問題が生じる可能性があることに注意してください。
最後に、リバースエンジニアリングと各種法令との関係性を解説します。
リバースエンジニアリングと「著作権」について
著作権とは、考えや気持ちを表現した「著作物」を保護するために著作者に与えられる権利のことです。
リバースエンジニアリングで著作権が問題になるケースとしては、ソースコードや設計図を著作者に無断で複製・抽出した場合が挙げられます。ソースコードや設計図は著作物として認められているためです。
しかし、ソースコードや設計図を作る際に必要なアイデアは著作物ではなく、著作権で保護されていません。そのため、他社の製品やソフトウェアを解析して自社製品のアイデアを得ることは合法とされています。
(出典: e-Gov 法令検索「著作権法」/https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048#Mp-Ch_2-Se_3-Ss_5-At_30_4)
リバースエンジニアリングと「知的財産権」について
知的財産権とは、知的な創作活動によって作り出されたアイデアや創作物といった「知的財産」の創出者に与えられる権利のことです。知的財産権は創作物に対するさまざまな権利を包括した概念であり、著作権・特許権・実用新案権・商標権・意匠権などが含まれます。
リバースエンジニアリングを行って他社製品の技術を解析し、自社製品への組み込みや改良を行った場合、知的財産権の侵害と見なされるおそれがあるため注意してください。
たとえば他社製品の形状や構造が実用新案権で保護されている場合、形状や構造をそのまま自社製品に取り入れると実用新案権を侵害したことになります。
リバースエンジニアリングと「特許権」について
特許権とは、発明に対する発明者の利益を保護する権利のことです。製品に用いられている技術が特許権で保護されている場合、リバースエンジニアリングにより技術を獲得して製品を製造・販売することは特許権の侵害にあたります。
ただし、特許権の効力は試験や研究を目的として製作した物には及ばないとされています。そのため、あくまでも試験や研究を行うために他社製品の分解や解析を行う場合は、特許権の侵害にはならないと考えられるでしょう。
(出典:e-Gov 法令検索「特許法」/https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000121#Mp-Ch_4-Se_1-At_69)
まとめ
リバースエンジニアリングとは、既存製品を解析して設計や仕組みを明らかにする手法です。
リバースエンジニアリングはさまざまな目的で行われていて、他社製品を解析する場合は開発コストの削減や新たなアイデアの獲得ができます。一方、自社製品を対象とした場合は過去製品の復元やセキュリティリスクの低減といったメリットを得ることが可能です。
リバースエンジニアリングは製造業企業の多くで活用され、製品開発や製造プロセスの改良に役立てられています。製造業の業務や働き方に興味がある方は、ぜひ「WILL+(ウイルタス)」が紹介する製造業・エンジニアの求人もぜひご確認ください。
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